メディカルセラピー

アロマの可能性

 最近、西洋医学では解決しにくいメンタル分野でのストレス、不眠症、うつ病、青少年の自殺問題や、体は元気でも脳の病気を発症する認知症などが社会問題となっています。

その解決方法の手段の一つとして香りが注目されています。

香りを使うには、

①    高い専門性が必要。

②    嗜好性に左右される。

③    (旧)薬事法に触れる可能性があり、医療として取り扱いにくい。

④    「代替医療=アロマテラピー=精油=安心」という固定概念が強く、精油のクロップ差・産地の違いなどの問題を潜在的に抱えている。

などの課題があります。 これらの課題により現在は、心療内科、大学などの研究機関、一部の香料・アロマ関連企業などの狭い範囲での研究にとどまっています。

今回はその中でも、以前にTVで紹介され、アロマショップで売れ続けている精油の話をします。

急増する認知症

 総務省の統計によると2016101日現在、65歳以上の日本の人口は、前年比72.3万人増の34591000人で全体の27.3%となっています。

 また、厚生労働省の20151月の発表によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。認知症の前段階とされる「軽度認知障害/MCI」と推計される約400万人を合わせると、高齢者の約4人に1人が認知症あるいはその予備群ということになります。この数字からも日本は高齢者大国になると言われています。介護施設の問題や老老介護などいろいろな問題が現実になってきており、徘徊された方が電車にはねられたり、運転事故を起こしたり、その保障に関してなど大きな問題となっています。医学の発展により健康寿命は延びています。その分、脳の病気である認知症などがさらに大きな問題になってくると思います。

*軽度認知障害/MCI:認知機能(記憶、決定、理由づけ、実行など)のうち1つの機能に問題が生じてはいますが、日常生活には支障がない状態のこと

認知症とは

 認知症予備軍(軽度の認知症)の方による自動車事故などが紙面をにぎわしていますが、認知症とは「老いにともなう病気の一つです。さまざまな原因で脳の細胞が死ぬ、または働きが悪くなることによって、記憶・判断力の障害などが起こり、意識障害はないものの社会生活や対人関係に支障が出ている状態(およそ6か月以上継続)」のことをいいます。

認知症と香り(昼アロマ・夜アロマ)

こういった社会背景の中、精油を使用した認知症予防法が話題になりました。

20142月のテレビ放送で、「ある匂いを嗅ぐと脳が若返り認知症を予防できる」としてアロマ(エッセンシャルオイル、精油)による認知症予防プログラムが紹介されました。このプログラムを開発したのが、認知症予防の専門家 鳥取大学医学部教授 浦上克哉先生です。

 

 認知症の中で最も多いのは、アルツハイマー型認知症です。浦上氏の理論は以下の通りです。

・アルツハイマー型認知症はもの忘れから始まるといわれているが、実は嗅覚障害が先に起こる。

・最初に臭神経が障害され、次いで記憶との関係性が深い海馬の神経細胞が障害される。

・そこで嗅覚障害はあるが、もの忘れはまだないという状態で香りによる嗅覚刺激を行なえば認知症を予防できる可能性が考えられる。

・また、障害が起こったとしても、嗅神経は他の神経よりも再生能力が高いということから、嗅神経に刺激を与え海馬を活性化させることで認知症が改善される。

 

 施術方法は、被験者に毎日決まった時間に精油を嗅いでもらいます。時間は午前中の2時間(9時~11時)と、夜間の2時間(19:30-21:30)。施術開始前と期間終了後に老年期痴呆行動評価尺度にて評価しています。

 使用された精油は、午前中は、集中力を高め記憶力を強化するという交感神経を刺激する「レモンとローズマリーカンファーのブレンドオイル」。夜間には心や身体への鎮静作用があり副交感神経を刺激する「真正ラベンダーとスイートオレンジのブレンドオイル」。

 昼の覚醒作用のある香りと夜の鎮静作用のある香りを繰り返し嗅ぐことで嗅神経が活性化し、アルツハイマー型認知症ではアロマセラピーにより顕著に改善効果がみられた、ということです。

 

 嗅覚は、五感の中で最も研究が遅れている分野です。また、脳科学は、タブー視されていた研究ということもあり、こちらも研究が遅れていました。近年、この両分野では革新的に分析技術が発展しています。

認知症と香り(レモングラス)

 鳥取大学の浦上先生以外にも香りで認知症対策の手法を見出した人がいます。日本アロマセラピー学会理事長の塩田清二先生です。

アルツハイマー病の初期には嗅覚異常があり、アルツハイマー病の重症度と嗅覚障害の重症度に明らかな相関関係があることが多くの研究で報告されています。また、アルツハイマー病の改善に、香りの効果があることが少しずつ証明されてきています。

塩田氏は、老健施設において、交感神経系を活性化するレモングラスの香りで毎日2時間くらいアルツハイマー病患者に芳香療法を続けたところ、日中は活動的になり、夜は疲れて眠るようになったとうことです。

この調査からレモングラスの香りは、大脳の前頭葉の脳血流量を有意に増加させ、前頭葉を刺激することで脳の活性化につながり、集中力や記憶力がアップし、認知症が改善に役立つことがわかりました。 

実験方法など、「住友化学園芸 e-グリーンコミュニケーション」のサイトに、塩田先生の監修により記載されていますので、ご参照くださいませ。

https://www.sc-engei.co.jp/gardeningbeginner/aroma_therapy/lemongrass_effect.html