香料/香料業界

香料とは?

 最近TVのCMなどで、「華やかな香りの~」とか、「臭いを防ぐ!」というフレーズをよく耳にするようになりました。その商品は「香料」という物質がキーになっています。

 香料とは、簡単に言うと「香りがある物質」のことで、商業的に使用されているものをいいます。

 動植物から得られる特有の香りがある物質や、香りがある化合物、またはそれらの混合物で、食品や化粧品などさまざまな製品に香りをつけるための物質のことです。

 香料は、花などの天然の香りの成分を圧搾、抽出、蒸留などによって採られる「天然香料」と、人工的に作られる香りのある物質「合成香料」とを素材として、調合してつくられます。

 

 また、主に食品の香味付けを利用目的とした香料をフレーバー(食品香料)と呼び、化粧品やハウスホールド製品などの香りづけを利用目的とした香料をフレグランス(香粧品香料)と呼びます。 

 フレーバー(食品香料)は、口から摂取する食品香料のことです。味は香りと一体となって知覚されるので、よりおいしく食べられるように食品に香り付けをします。炊き立てのご飯や温かい味噌汁の香りをおいしそうだと感じるように、香りもおいしさを構成する重要な要素です。フレーバーを付与する目的は「風味・香味付け」であり、それ以外の目的(食品の色の調整や腐敗を防ぐ等)に使用することはできません。

 

  フレグランス(香粧品香料)とは狭い意味では香水・コロンなどのことを意味することがあります。しかし、一般的には化粧品・トイレタリー製品・ハウスホールド製品・芳香剤などの芳香製品(香粧品)に使用される香料のことをいいます。

 私が以前に勤務していた「ジボダンジャパン」や「クエストインターナショナルジャパン」という会社は香料メーカーで、化粧品・ヘアケア製品・ハウスホールド製品の香料を開発しメーカーに納入しています。

 ちなみに「香料」は*医薬品医療機器等法では以下のように定義されています。『「化粧品」においては、香料を着香剤(商品に香りをつける目的で使用される原料)として用いる場合の成分名は、「香料」(表示名称)と記載して差し支えない』

以上のことより、天然香料でも合成香料でも調合香料でも、商品での表示名は「香料」になります。

 *医薬品医療機器等法・・・旧薬事法、「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器」の定義をしている法律。以前は、薬事法と言われていましたが、現在は名称変更されているので、通称”旧薬事法”と言われています。

香料の歴史

 紀元前3000年ころの古代エジプト初期から、香りは神聖なものであり薫香として神殿で焚かれました。また、王族が亡くなると、その亡骸に防腐・防臭目的でミルラ(没薬)などの樹脂がミイラに塗られていました。

 香り・香料を意味している英語の“Perfume”の語源は、ラテン語の“Per fumum”です。「through smoke(煙を通して)」という意味であり、香料の起源は煙とともに用いられていたことがうかがえます。

 

 古代エジプト後期、紀元前1世紀のプトレマイオス朝を治めた絶世の美女クレオパトラは香料に対する関心も高く、「キフィ」の香りをつけ、着飾り、圧倒的な魅力を持つ女性として伝説になっています。「キフィ」は主にワインをベースにオリバナム、ミルラ、サフラン、カシア、干しぶどう、ハチミツ、スパイクナルドなどが用いられていたようです。

 

 古代ギリシャ時代には、医学の父とも呼ばれるヒポクラテスが医学の礎を築き、芳香植物を生のままや乾燥させたものを焚いて治療のひとつにしていました。

 

 ギリシャからローマに香料が伝わると、ローズウォーターなどの香りが多く使われるようになり、浴室や寝室にまで香りを用いるようになりました。

 ローマ風呂で13回の入浴を楽しんだ貴族たちは、多量の香油を体に塗ったり、部屋や衣類に固体や粉末の香料を使用しました。香料への欲求は交易ルートをアラビア半島、インド、中国(シルクロード)にまで拡大させ、香料はガラス容器を使用したので、ガラス工芸技術の発展にも貢献しました。

 

 南フランスの丘陵にグラースという町があります。

 現在、世界の香料の中心地ともいうべきこの町は12世紀末頃には皮革工業が盛んで、16世紀頃から製油工場が多くでき始めます。これは香料がなめし皮の臭いを消すのに役立つため、この町で大いにもてはやされたからです。

 その後、マルセーユなどで盛んになった石鹸に香料が使用されるようになり(マルセーユ石鹸)、グラースは香料の中心地として発展していきました。

グラース地方の温暖な気候・風土はジャスミン、ローズ、ラベンダー、オレンジフラワーなど、多くの香料植物の栽培に適しており、この町は「香料のメッカ」とまで呼ばれるようになったのです。

香料会社

 中世の頃、南フランスにあるグラース地方は、手袋製造の中心地で、皮革をなめし、手袋が作られていました。香り付き手袋の流行により、この地で作られる手袋にも香りがつけられるようになりました。温暖で周囲は芳香植物にあふれ、香料の生産にも適していました。その後、香料産業は手袋製造から分離し、グラースは香料産業の中心地となり世界に知られる「香水の都」となり、多くの香料会社が設立されました。

 香料会社の中では、フレーバー(食品香料)とフレグランス(香粧品香料)は、一般的に違う事業部・部門になっています。

 この2つの事業部は、顧客も全く違うこともあり、業務上交わることが少なく、まるで別会社のようです。しかし、どちらも事業部内の組織はほぼ同じで、大きく営業、研究、マーケティング、製造、法務(レギュレーション)に分かれています。

 

 日本の市場では、2者間での売り上げの割合は、フレーバー90~80%に対し、フレグランスが10~20%になっています。これは、日本ではあまり香水の市場がないためというのが大きな要因です。きっちりとしたデータはありませんが、欧米では、フレーバーとフレグランスの売り上げの割合はほぼ半々のようです。

 また、フレグランスでは、ここ数年P&Gなど外資系メーカーの台頭により、国内生産が少しずつ少なくなってきています。外資系メーカーの台頭=製品の香りも欧米風になってきており、日本人の嗜好もより欧米よりになってきています。実際、洗剤、柔軟剤などは、優しい香りではなく、エッジのきいた香水調の香りが増えています。

  一方、ここ数年インバウンドの期待が高まり、「和の香り」のニーズが高まっています。それに伴い、国内で精油を採油するという動きも高まってきています。今後の動向に期待したいです。

 

香料の開発①

 これは、10年くらい前に私が香料会社に勤務していた時の話です。メーカーが新しく香りつき商品を企画するときに多いのは、まずその商品の「コンセプト」、「仕様」、「基材・アプリケーション」、「価格」、「ターゲット層(男女、年齢など)」、「ベンチマーク」、「香り」などを決めます。この時の「香り」は、シトラス、ハーブ、フローラルなど大まかな香調だけのパターンが多いです。

 ある程度企画案が決まった段階で、メーカーは香料会社に依頼をかけます(「ブリーフ」という)。香料会社は、その内容から香りづくりを始めます。その内容は例えば、「ヨーロッパの爽やかな新緑をイメージできるグリーンフローラルの香り」といったようなものです。グリーンフローラルと言っても、どの原料(香調)をメインとして、アクセントをどう取り入れて、どういう比率で処方をつくるかということになります。使用する原料は処方により異なりますが、だいたい20100種類以上になり、膨大な作業になります。

 また、香りを開発する際の一番大きな要素として、「メーカーの誰をターゲット」にするかが大きな問題となります。

①    メーカーの担当者・・・香料を依頼してくるメーカーの担当者の思い入れは強いですが、最終的に香料を決定する権限はあまりありません。

②     担当者のチーム・・・一時候補をスクリーニングする際に、担当者の上司を含めたチーム(部門)で香りの評価をします。そこには、チームの傾向が出ます。

    ③ 決裁者・・・担当者、チームが決めても、実際の商品にしたときに、売れるかどうかを判断するのは、やはり決裁者。しかし、意識しすぎると、一時スクリーニングを通過することもできません。

④    パネルテストのパネラー

a.一般の方(使う頻度に関係なく、調査のためにランダムに集めたパネリスト)・・・トレンドや一般的な嗜好性を意識して開発

b. ロイヤルユーザー(いつも、そのメーカーの商品、ブランドの商品を使っている方)・・・現行商品のラインナップを考慮した開発)

 

 どのターゲットを考慮するかは、香料会社の営業が判断することですが、開発にあたってはそのプロジェクトのチームの営業・perfumer・エバリュエーターが、試行錯誤しながら何回も改良をして、メーカーのご意向にあった香料をつくっていきます。

 

 商品を販売するメーカーの立場では、「売れる香り」を作ればいいのですが、通常、メーカーは何社にもブリーフを出しますので、香料会社のperfumerの立場からすると、競合他社に「勝てる香り」を作らなければなりません。ここがperfumerの腕のみせどころです。

 こうやって激戦を勝ち取った商品がドラッグストアなどの棚に並ぶのはとてもうれしいものです。しかし、商品によっては半年くらいで棚から消えていくものもあります。

香料の開発②

 メーカーが新製品の香りを最終的に決める方法は、大きく2つに分かれます。メーカーの決裁者が決めるか、パネルテストの結果で決めるか。前者は、決裁者が過去の経験や自分のセンスで「これがいい」と決めるので費用も時間も少なく、わりとシンプルに決まります。後者は、パネラーを集め、会場を用意し、サンプルを用意し、11人説明して、終わったら集計して・・・程度の差こそありますが、非常にお金と時間がかかります。パネルテストは外資系企業が行っているのが多く、マーケティング技術も進んでいるので、大きな会社ほどターゲット層を中心に調査をするということが多くなってきているようです。そのテストの結果で、「香りの嗜好性と商品としての価値の違い」を再認識した事例を紹介いたします。

 これは、10年以上前の話ですが、当時ユニリーバから販売されていた「LUX SUPER RICH」がシャンプーでの売上がNo.1でした。新商品として、資生堂からTSUBAKIのシャンプーが発売され、大量のCMが放映されていました。SMAPBGMとともに多くの女優が出演したあのCMはすごい鮮烈だったのを今でも覚えています。

 当時在籍していた外資系香料会社で、市場商品のシャンプーの嗜好性調査のために、一般の消費者にパネルテストを行いました。人数は、100人前後だったと思います。

 そのテストは、ブランド名・製品名などがわからない状態で、A,B,Cなどの記号で「どの香りが好きですか?」「それはなぜですか?」などという質問に答えていただくものでした。

 我々は、売上1位のLUXか、CMでインパクトのあるTSIBAKIが、香りが好きという1位になると思っていたのですが、嗜好性に偏りがなく(いわゆる万人好み)、複雑な香りではない単純なグリーンアップルの香りのパンテーン(P&G)が嗜好性一番になりました。

 その時のテストはブラインドテスト(メーカー名もブランド名、香り名もテスターに教えない)だったので、どのような商品かを伝えたテストだったら、結果は違っていたかもしれません。

このブラインドとちがうのきゃ?

 その結果で改めてわかったことは、その商品の香りが好きなのではなく、そのブランドとして(ブランドコンセプト・世界観や時代背景も含めて)その香りの商品が好きであるということでした。なので、売れる商品のためには、コンセプトにあった香り開発・商品開発が大切だということです。

甘い香りとは?

 香りビジネスをしていると、お客様より「少し甘さが気になる」「甘くない香りが欲しい」と言われることがあります。果たして、「甘い香り」とは何でしょうか?

 私は、以前に香料会社の営業をしていた時のことです。メーカーの担当者から「ちょっと甘さを抑えて改良して欲しい」と言われた時がありました。それをそのままperfumerに伝えたところ、「どんな甘さを抑えたらいいんだ?甘さって言ってもいろいろあるだろ?それでも香料会社の営業か?もう一回聞いてきなさい!」と怒鳴られました。

 “甘さ”といっても、香料原料にはさまざまなものがあります。VanillinEthyl VanillinMaltolEthyl maltolCoumarinMusk類、エステル類(Fruityな甘さ)、レジノイド類、Amber系、Powdery…… また、1つの処方の中でも、複数の要素の“甘さ“の原料を入れることも多々あります。

 香りは嗜好性を伴うので、人によって感じる甘さが違ってきます。なので、お客様がどの部分を甘いと思っているのか、的確にお聞きするのが重要になるのです。

 それをお聞きし、Perfumerに伝え、perfumerは処方中のどの原料がそれに当てはまるのか、どれくらい減らすのか、減らした分を全体としてどうバランスを整えるのか、コストをどう調整するのか、という膨大な作業が伴ってきます。場合によっては、全体を再構成することもあります。

 担当者の言っている“甘さ”が思っていたのと違っていて的外れな改良を行うと、行ったこの膨大な作業が無駄になってしまいます。

 では、香料原料に精通していない人からは、どう聞き取ればいいのか?甘さであれば、食べ物(デザート)に例えると伝わりやすいです。

 生クリーム、カスタードクリーム、チョコレート、バニラ(アイス)、ソフトクリーム、プリン(カラメル)、フルーツ、ハチミツ、砂糖・・・ さらに、その種類や具体的な商品の銘柄をいうのもいいかもしれません。

 甘さ以外の香調でも、味覚に例えたり、香水など具体的な商品名で例えたり、伝え合う人たちで共通用語をどう見つけていくかが香りを言葉で伝えるカギになります。

香調説明

 香りを言葉で説明するときは、「香調説明」という表現方法を用いて、見えない香りを言葉によって伝えます。

 この「香調表現」。業界で大きく変わらないですが、決まったルールはなく、会社やブランドなどによって異なります。下記に一般的な一例を示します。

 この表現方法で、どんな香りかイメージがわきますか?

音楽と香り

 音楽も香リも見えないものを表現します。
 その表現方法にはいくつかの共通する言葉があります。

 音楽で使われる言葉に「アコード」(和音)、 「ノート」(音符)があります。これらは、香りを表現するのにも使われる言葉です。

 また、 調香台のことを「argue a parfum」(香水のためのオルガン)というそうです。